第18章 誘拐
ローは私の言葉に一瞬怪訝な顔をしたけど、やがて思い出したように、あぁ、とつぶやいた。
「そういや…、お前オハラ出身だったな」
「それを知ってるってことは、なにが起きたかも知っているのね」
「…有名な話だからな」
嘘ばっかり。
地図からも消された国なのよ?
よっぽど情報通じゃなきゃ、その存在すら知りようがないのに。
少しの沈黙の後、ローは改めて私に視線を向けた。真っ直ぐなその眼差しの奥には、やはり暗い影が潜んでいる気がした。
「世界政府が憎いか」
ぽつりと、言葉が落とされる。
いつのまにかウソップとシーザーの声が聞こえなくなっていた。どこかに行ってしまったらしい。
私はローを見つめ返して、小さく息を吸う。
「…ええ、そうね」
自分でも驚くほど、それを認めることに躊躇いはなかった。
「この先何があったとしても、きっと許すことはできないでしょうね。忘れることなんて、できない」
この哀しみも怒りもきっとこの先一生消えない。
それだけは確信を持って言える。
「だから私は、"空白の100年"に何があったのかを知りたいの。世界政府が隠したこと、私の大切な人たちが知ろうとしたことを、私は知りたい。…いえ、知らないといけない」
私が、あの人たちの分まで生きて、いつかきっと全てを知ってみせる。それまでは、何があっても死ねないの。
私はふと目の前の男を見て、目を細める。
そう。そして、それはきっと。
「……あなたもなのね」
私の問いに、ローは何も返さない。
だけど、その沈黙が答えだと思った。
彼の過去に何があったのかは知らないし、知ろうとする気もないけれど。
きっと、赦せない何かがずっと彼の重りになっていて。
そして、その不安定な天秤は、ある一点の支えによってかろうじて水平を保っているのだ。
ある一点──。
ふと、銀色の柔らかな髪をした彼女が脳裏に浮かぶ。
──彼女が無事なうちは、憎しみに呑まれることはない。
なぜか、そんな気がした。