第18章 誘拐
「あの子を遠ざけるのは、あなたの過去に理由があるの?」
気になって聞いてみると、ローは僅かに目を細めた。
「お前、何を知っている?」
「別に何も知らないわ。何となくそう思っただけ」
嘘ではない。
彼の過去に何があったのかなんて知らない。
だけど、強いて言うなら、彼の目の奥に宿る薄暗い影には見覚えがあった。
堪えて、耐えて、ずっと我慢してきて。
泣いて怒って憎んでも、それでも過去は変わらなくて。
そんな現実が心底嫌いで。
冷静そうに見えて、心の中ではずっと憎しみの炎が燃えている──そんな、目を。
──麦わらの一味に出会う前の私と、同じ目をしている。
それは、出会った当初から思っていたこと。
この男に親近感を覚えるのは、きっとそれが理由だった。
「事情は知らないけれど、そうね。今回は私もきっと同じことをしたと思うわ。危険だと分かっているところに、仲間を連れていきたくないもの。その危険さをよく知っているなら、尚のことね」
彼の気持ちは少し分かる。私だって自分の勝手な事情に、優しい人たち──今は仲間と呼べるようになった彼らを巻き込むことに、初めはものすごく抵抗があったから。
誰も巻き込みたくない。
この命が終わる時は、1人でいい。むしろ独りがいい。
ずっとそう思っていたから。
頑なに閉じたはずの扉を、彼が壊すまでは。