第18章 誘拐
「あなたがそんな状態で、作戦は成功するのかしら」
無言で先を急ぐ男にちらと目をやり、同じく足を早める。案の定、返事はない。船を出てからずっとこんな調子だから何かを思うことはないのだけど。
「ルフィの決めたことだからあなたの指示には従うけど、こうも蔑ろにされてはこちらもいい気はしないわ」
やはり反応なし。
そっとため息をつく。
私たちは、ドフラミンゴとの取引のためにグリーンビットに向かっている。それを決めたのは、目の前をスタスタと歩いている男。
作戦の主軸である彼に聞きたいことはたくさんあるのだけど、さっきからいくら話しかけても一切返事をよこさない。
原因があるとすれば、船を出る前の出来事でしょうけど…。そんなに腹の立つことだったのかしら。
「…彼女、泣いてるかも知れないわね」
ぽつりと呟くと、僅かに──ほんの僅かに、彼の歩くスピードが遅くなったような気がした。
「ずっと様子が変だったけど。今日は一段と落ち着かないみたいだったわ」
気のせいではない。
やっぱり、少し歩みが遅くなっている。
…彼の気を引くのは、案外簡単なことだったんだわ。
「まぁ、今頃サンジが優しく慰めてるんでしょうけど」
「…うるせェ」
「あら、ちゃんと聞こえてたの」
意外だと驚いてみせると、ローはようやく私の方を見た。そして、苦々しく言う。
「帰ったら全部話す。だからアイツの話はするな」
黒いフードの下から覗く鋭い眼光。持っている大太刀が鎌だったらまるで死神に見えたことでしょうね。
そんなことを考え、今の自分の格好を思い出して私も似たようなものねと思い直す。黒いワンピースに黒いブーツ。持ち前の漆黒の髪も相まって、私だって死神のように見えているかも知れない。
「おい、ロビン。あんまりそいつを刺激するなよ。何しでかすかわかんねェぞ!!」
「ウフフ、大丈夫よきっと」
ウソップがローから隠れるようにして私の後ろから警戒した声を出す。だけど、何故か私にはこの人は大丈夫だという確信があった。
ルフィがこの男を信じているから?
ええ、おそらくそれもある。だけど。