第18章 誘拐
ドレスローザが見えたのは、その翌日のことだった。
──愛と情熱とオモチャの国。
そう呼ばれるのも分かるくらいの、熱気と活気。
目と耳に飛び込んでくる色鮮やかな街並みや愉快な音楽は上陸した者たちの心を魅了し、足止めする。麦わらの一味もその例外ではなかった。
特にルフィは一目でこの国が気に入ったようだった。瞳を煌めかせて、船から飛び出していく。
あたしだってそうしたいところだったけど…。
「アウラ、あなたやっぱり最近変よ。どうしたの」
「……平気」
あたしの精神状態はますますひどくなっていた。
傍目からもそれが分かるくらいなんだから、よっぽどひどい顔をしてるんだろう。ナミの心配気な言葉にも今やそれだけ返すのがやっと。
決して体調が悪いわけでは無い。ただ、理由のない苛立ちがあたしの心を支配していたのだ。
焦燥感が度を越して、無性に心がムカムカする。もう何に焦っているのか考えることにも疲れていた。話しかけられるたびに声を荒げてしまいそうになる。
だから、できるだけ人と話さないように黙り込む。それがあたしの取るべき一番の対策だった。
そう、思っていたのに…。
「おまえら、なんか黒いなあ」
地面から声が聞こえてきた、と思ったら、チョッパーがまんまるな目を瞬いていた。
…ああもう、それを見ないようにしてるのに。
あたしはチョッパーの視線の先にいる人を知っていた。げんなりした気持ちで、だけど無視はできなくて目を向ける。
そこにいたのは、トレードマークの帽子の上からパーカーのフードを被り、気だるそうにしてる目つきの悪い男。
…ローはシーザーの引き渡しのために、一度船を降りるのだ。