第18章 誘拐
元気に腕まくりするあたしを見て、ローは小さくため息をついた。
「ほどほどにしとけよ」
「もしかしてロー、怖いの?」
仕返しとばかりに、ちょっと冗談めかして言ってみたのに、ローはなぜか嫌そうに顔を顰めて、つぶやく。
「…一度気に入ったらなかなか諦めそうにねェだろ、アイツ」
「???」
「麦わら屋にゃやらねェって言ってんだ。……まぁいい、何かあるなら早めに言えよ」
最後に意味不明な言葉を残して、ローはその場を去っていった。
…なによ。
あなただって何も教えてくれないくせに。
あたしはその後ろ姿を見ながらまたちょっと沈んだ気持ちになる。
あの日、あの夜に、少しはローの考えがわかったと思った。だけど、日が経つにつれてまた何を考えているか分からなくなってしまった。
あなたがそうまでしてこの件にあたしを関わらせたく無いのはどうして?あたしを守りたいから?
……ううん、きっとそうじゃ無い。だって、彼から感じるのはずっと、義務のような、使命感のようなそんな頑なさだったから。
10年前に、突然ミカヅキ島に現れたロー。
彼はあの島に縁もゆかりもないはずだった。
そんな彼を追ってこんなところまで来てしまったあたしもあたしだけど、ローにもあたしを守る理由はひとつも無いのだ。
ローはどうして、あたしを気にかけてくれるんだろう。そもそも、どうしてあの島に…?
出会ってから10年が経とうとしていた。
だけど、彼の真意は依然わからないまま。
…あたしとローの距離は、こんなにも遠い。