第3章 白と赤
広い海を前に、何を買って帰ろうかあれこれ思い巡らせていると、突然―。
小柄な男、いや男の子?が、ぽーんと弾き飛ばされるのが視界の端に映った。
直前に「くらえ!ネコネコのパァンチ!」というふざけた叫び声が聞こえた気がしたけど、気のせいかな。
いや、気のせいだよね。
そんななんかのパクリみたいな技名…って、あら?あらら。大丈夫かな、あの子。
少年はあたしの目の前を心配になるくらい盛大にごろんごろんと転がり、やがて船べりにぶつかって止まった。
「ってェ!」
「ハハハ!なんだその技は!」
後ろで、恰幅の良い人物が片腕をあげながら豪快に笑っている。
どうやらこの人が少年をぶん投げたみたいだ。
ついでに、変な技名を叫んだのも気のせいじゃなかったみたい。
突然で驚いたけど、飛ばされた側もニカっと笑っているところを見ると、これはいつものことなんだろう。
じゃれあいのようなもの?
…にしては豪快すぎる気もするけれど。
少年がぴょこんと起き上がる。
「いいだろ!今思いついたんだ。ほらおれネコネコの実を食べたからな!」
そう言っておどけたように奇妙に跳ねた髪の毛の先を二つ摘む。
「「「そらァただの寝癖だろうがっ!」」」
他の乗組員から総ツッコミが入ったところで、あたしは思わず吹き出してしまった。