第3章 白と赤
「おいトラ!船は大丈夫か?」
突然呼ばれて振り向くと、顔見知りの船乗りのおっちゃんがいた。
「うん、最高だよ」
「そらァよかった。チビも心地良さそうで何よりだ」
すやすや眠るジョナサンを見ておっちゃんはカカカと笑う。
逞しい腕に日焼けした肌。
無精髭もよく似合っている。
見るからに、海が似合う男って感じだ。
そんなことを思って一人頷いてから、あたしは気になっていたことをふと思い出した。
「あの、本当にいいの?タダで乗せてもらって」
そう。あたしはこの船に乗せてもらう時、お代をいくらか払おうと思っていたの。
危険を伴う海を渡るには、丈夫な船と優れた知識や技術を持ったクルーが必要で。
そんな船に乗せてもらうからにはその対価を払うのは至極当然のこと。
…なんだけれど。
この船の乗組員は誰一人としてそれを受け取ってはくれなかったのだ。
彼らの言い分は、別にガキ1人2人乗せるくらいなんてことねェ、だそうだ。
「あったりめェだ。男に二言はねェよ」
フンと鼻息も荒く隣で海を見つめるおっちゃん。
本当に、人が良すぎるよ。
申し訳ない気持ちはまだあるけど、これ以上言うのは野暮ってもんよね。
やっとその優しさを受け取ることに納得して、代わりに満面の笑みでありがとうと伝える。
よし。浮いたお金であの子たちに何かお土産でも買ってあげようか。