第18章 誘拐
「…いいから一回落ち着け」
ローに軽く肩を掴まれると、体からふっと力が抜けた。
…あたし、こんなに緊張してたんだ。
途端に静まる風。
船が急速にスピードを落としていくのを感じて、あたしは呆然とローを見上げた。
「……どうした?」
珍しく険悪な色がないローの目を見返しながら、あたしはそれに答えることができなかった。どうしてこんなことをしていたのか、自分でも分からないんだもの。
「わ、わかんない。焦ってるのかな、あたし。…はは」
乾いた笑いで誤魔化そうとしてみたら、ローの目が少し厳しくなる。
「気づいてねェと思ってるかもしれねェが、お前、ここ最近ずっと様子がおかしいぞ。何かあるなら言え。何もなくても言え」
「何も無いことをどう言えっていうの」
言い返しながら、そういえば、と思い出す。
そう言えば、勘が鋭いのはルフィだけじゃなかった。この人も、あたしの恋心には気づかないくせに、普段は恐ろしく勘が鋭いんだった。
平静を装って無理やり笑顔を作る。
「多分、新しい島だからちょっと緊張してるんだと思う。本当に、ただそれだけだよ」
気にしないでっていう意味を込めて言ったのに、ローは納得してないようで。
そのまま無言で手首を掴まれる。ぼんやりとそれを見ていると、次いで彼は流れるような仕草であたしの額に手の甲を当てた。
「…脈はすこし早いが、熱はねェな」
「だ、だから言ってるじゃないの。ほんとに、なんとも無いんだって!」
脈早い、ってそりゃそうでしょう!!!
あなたはなんとも思ってないんだろうけど!!
──あの夜から!!
あの夜から、こっちはあなたの言動一つ一つにドキドキしてんのよ!
今だって話しかけられて、内心ものすごくびっくりしたんだから!!
慌てて一歩後退ってみるけど、もう手遅れな気がする。顔が赤くなっていないことを祈るばかりだった。