第18章 誘拐
いつも能天気で何も考えてないように見えるけど、ルフィは紛れもなく、世界に名を轟かす最悪の世代、麦わら海賊団の船長だった。
噂通りの実力で…そして、妙なところで鋭い。
「とにかく、あたしはすこぶる元気だから心配しないで。それよりルフィ、もうすぐ朝食ができるみたい。下、降りよう」
サンジが焼く目玉焼きと香ばしい魚の香り。
それを嗅ぎ取って、あたしは極力明るい声が出るように努める。
「んまじかっ!メシーー!!!」
ぴょんと屋根から飛び降りるルフィを目で追いかけながら、あたしもよっこらしょと立ち上がる。
「…あたし、そんなに険しい顔してたんだ。気をつけないと……」
──ここ最近ずっと胸がざわめいていることを、まだ誰にも言ってない。
嫌な予感というより、どこか落ち着かない感じ。強いていうなら、焦燥感に近い感覚だった。こんなことしてる場合じゃないのに…と常に心の奥底で感じて。だけど、何をそんなに急いているのか自分でも分からない。
夢のせいなのか、それともこれからの旅路に不安を感じているせいなのか。
誰かに話すにしても、なんだか焦りを感じる、としか言えないのだ。そんなだから、みんなに相談してみる気にもなれなかった。
よく分からない心配事を無闇に話して、計画の妨げになってはいけない。それはあたしもよく分かっていた。これからしようとしていることは、彼らにとっても大きな賭けに違いないのだから。
その心配事があたしの過去に関することなら尚のこと、だ。仲間になったわけではない、単なる同行者に過ぎないあたしの過去に何があろうと、それはあまりにも彼らに遠いことだった。
「……早く、全部分かればいいのに」
そうしたら、こんなに不安になることもないはずなのに。
あたしは、迷いを吹っ切るように屋根から飛び降りて、ルフィの後を追いかけた。