第18章 誘拐
「おはよう。朝から元気だね、ルフィ」
見つかってしまったものは仕方ない。嫌味が通じると思えないけど、呆れた表情で彼を迎える。
「なァ、ゆきんこ。もうすぐドレスローザか!?」
案の定、気にする素振りも無い彼。屈託のない笑顔で聞かれても、あたしはなんて言えば良いのか。
歳はあたしと変わらないはずなのに、ルフィを見ているとなんだか弟を相手しているような気分になる。どこまでも純粋で、いつも度が過ぎるくらい自由だからだろうか。
「そんなのあたしに聞かれても分かんないよ。ナミに聞いた方がよっぽど正確な答えが返ってくると思うんだけど」
「じゃあまだまだってことか〜...」
…あたしの話、聞いてた?
分かんないって言ってるでしょう。
あからさまにガッカリする彼を横目に、あたしは前方に向き直る。まだ、ドレスローザは影も形も見えなかった。
「もうすぐだと思ったんだけどなァー」
ルフィはあたしが、いや、あたしの能力が、いたく気に入ったらしかった。サニー号に乗ってからというもの、気がつけばそれを理由に何かと話しかけられる。
今、ルフィがナミではなくわざわざあたしに聞いてきたのも、この能力のせいだった。
確かに航海する上でとても便利なものだと思う。この能力は。それは間違いない。
パンクハザードで手に入れた、というか、思い出したあたしの能力は、風を操ることに長けていた。
晴れの日は帆を大きく膨らませて先を急ぎ、雨雲がやってくれば、強風を呼んで雲を散らせた。慣れてくると、雨雲や雷雲がひとつも見えない時から、わずかな湿気を感じ取って航路から逸らすこともできた。
海獣が遠くで跳ねる音を聞いては道案内をしたし、小魚の群れを海面に見つけた時は海水を吹き飛ばして舞い上がらせた。これがあれば、食料の調達にも苦労しない。