第18章 誘拐
「ゆきんこ〜〜!!!どこだ〜!!おーーーい!!」
甲板をドタドタと走り回る音。
朝っぱらから元気すぎる声。
…今何時だと思ってんの。
まだ朝日が顔を出して間もないのに、よくまあそんなに元気に走り回れるもんだわ。
あたしはふぁーと大きなあくびをして、返事もせずに相変わらず水平線をぼんやり見つめる。
見張り台の屋根の上は、あたしのお気に入りの場所だった。夢見が悪かった日は大抵早朝に目が覚める。
だから、一人でここに登って、朝日が海を照らすのを待つのだ。
目覚めはそんなに良いものじゃないけど、この時間はなんだか好きだった。冷たい朝の空気が肺に心地いい。比較的穏やかな新世界の朝は、これからはじまる冒険を待っているようで、ワクワクした。
そういえば、故郷でもよくマストのてっぺんに登って寛いでたな。
「…結局のところ、あたしは海が好きなんだわ」
しみじみと思って、静かな気持ちで朝を迎えていた。
…ところだったのに。
「おーーい!ゆきんこー!!」
お気に入りの時間を邪魔するやかましい男が一人。
「……おっかしいなァ。ブルック、ゆきんこ知らねェか?」
「ヨホホホ!さぁ、今朝はまだ見ていませんが。見張り台は探しました?」
「そういやまだだ!」
声が聞こえたかと思えば、あたしの目の前に、にょーんと片腕が伸びてくる。それが屋根の縁をガシッと掴んだ瞬間、次いで弾丸のように、麦わら帽子を片手で抑えた青年が飛んできた。
「いた!」
…ほんと、心臓に悪い。