第18章 誘拐
──場面が変わった。
何も見えない。暗闇だ。
だけど、あたしここを知ってる気がする。
だってほら。
あの女の人の声が聞こえるんだもの。
「……っ──。……」
何を言ってるかは聞き取れないけど、いつも聞こえるのは悲痛な泣き声だった。
──やっぱり。この夢は、知ってる。
目が暗闇に慣れたのか、徐々にぼんやりと周りが見えてくる。そして、あたしは薄暗い部屋の中でぽつりと座っていることに気がついた。冷たい地面の感触は本当に夢なのか疑うくらい生々しい。
あたしは目をぱちくりさせながら、目の前で同じように地面に蹲る女性を見つめていた。
「……お嬢様は、こんなところに居ていいお方ではないのに……っ。このような仕打ち、あんまりですわっ……」
女性は侍女のような格好をしていた。丈の長い黒っぽいスカートに、真っ白のエプロンが垂れ下がっている。今はしゃがみ込んでいるせいでそれがあたしの前で丸く膨らんで、小山のようになっていた。ぽたぽたと落ちる雫が白いエプロンにシミを作っている。
歳はあたしより少し上くらいだろうか。若々しい、というよりまだ少し幼い印象を与える黒目がちのつぶらな瞳。銀縁の楕円形の眼鏡をかけ、瞳とおそろいの黒い髪は、おさげにして両肩に垂らしている。
自信なさげに下がる眉毛からも、小刻みに震える肩からも、見ている方も苦しくなるくらいの悲壮感が漂っていた。
「……旦那様も奥様も、きっとお許しにならないわ。お嬢様の境遇を風の噂でもお聞きになれば、必ず、助けに来てくださるのに。だけどでも、あぁ……。……どうしてこんなことに」
嗚咽に混じって聞こえてくるのは、女性の嘆きのようだった。こんな風にはっきりと聞こえたこと、今までになかった気がする。今日の夢は、どれも鮮明すぎて少し怖いくらいだった。