第17章 岐路(Ⅱ)
「ねぇ。もしかして、ローがあたしを突き放したのって、ドフラミンゴに近づけないため?」
パンクハザードであの白い部屋に置いて行ったのも。
モネやヴェルゴと戦うなと言ったのも。
ついさっき、電伝虫をかける時にあたしを追いやったのも。
「それ以外に何があるんだ」
「そんなの…言ってくれなきゃ分かんないよ。だって、あたしてっきり、……っ」
泣きたくないのに、震える声が喉の奥に消えて言葉が続かない。想いが溢れて、じわじわと視界を侵食する。
「ローは、あたしに会いたくなかったんだと…思って……っ」
涙はもう、決壊寸前だった。嗚咽を堪えてやっとのことで声を出すと、厚い水膜の奥で一瞬、彼が目を見開いた気がした。
だけど、次の瞬間には少し表情を緩めて。
彼なりの不器用さで、無愛想ながらも。
「んなわけねェだろ」
やっと、あたしの聞きたかった答えをくれたのだった。
──ああどうしよう。
泣きそうだ。
危ない状況に陥っているのかもしれないのに、ここに来れてよかったと思った。それが聞けて、本当に良かった。
ローも、あの人も、あたしのことが嫌になって置いて行ったわけじゃなかった。
ローは、あたしといるのが嫌で突き放していたわけじゃなかった。彼は────。
自由を制限しないために、島を出るなとは言えず。
だけど、それゆえに、あたしに家族がいることも言えなかったんだ。あたしが会いたくなって、近づいてしまわないように。外の世界に、憧れてしまわないように。
──そうやって。
気付かないうちに、守られてたんだ。
「すぐ泣くのは変わらねェな」
「泣いてない……っ」
潤んだ視界をぎゅっと閉じて、震える唇を噛み締める。ローはそれを見てちょっと黙ってから、起き上がると同時にぐい、とあたしを抱え起こした。そのまま手を離し、また船べりにもたれかかる。
「13年前の件で十分だ。おれはもう…これ以上奪われる気はねェよ」
静かにつぶやいたその言葉。
鋭い眼光には、彼の計り知れない決意が見えた。
その言葉が何を指すのかは分からなかったけど、きっとそこに、ローのトラウマがあるんだ。簡単に人には話せないような、何かが。
それだけは、あたしにも分かった。