第17章 岐路(Ⅱ)
──ロー、13年前に何があったの?…あなたは一体何をそんなに恐れているの?
そう聞けたらいいのに、あたしには踏み込む勇気がない。
いつかあたしにも、教えてくれるだろうか。
ドフラミンゴに執着する理由。
"13年前の事件"のこと。
そして、あなたの大切な人の話。──"あの人"について。
「…約束」
ローは思い出したようにぽつりとつぶやいた。
「そういや、なんでも言うこと聞くって話だったな」
「…え?あ、あぁ…うん」
脈絡なく話を振られて、ぼんやり彼を見つめていたあたしは思わず間の抜けた返事をしてしまう。
約束って、子供たちを助けてくれたときに言った、"お願い"のことよね。何でも言うこと聞いてあげる!って豪語した、あれ。
もちろん覚えてるけど。
だけど、どうしてそれを今…?
困惑してローを見つめる。
やっぱり船を降りろって言うんじゃないでしょうね。それか、島へ帰れ、とか。
そう言われてもおかしくはなかった。
あたしを嫌って突き放していたわけじゃないってことは分かったけれど、結局、あたしがここにいることをよく思ってないっていう事実は変わらないのだから。
ローは、あたしを危険から遠ざけようとしてくれていた。それを知らずにあたしが一人で怒っている間も。
その事実を知ってしまっただけに、あたしも今度は反抗できる自信がなかった。
何でも言うことを聞くって言ったのは自分だけど、本当にそう言われたらどうしよう。
急に不安になるあたしをよそに、ローが徐にこちらを見た。
月夜に光るローの目。
黄玉のような輝きを秘めたその瞳に、今写っているのはあたしだけ。
それをまっすぐ見つめ返していると、どうしてだか、ざわめいていた気持ちが急速に落ち着いていくような気がした。今感じた不安が消えて、代わりに凪のような穏やかさがあたしの心に広がる。
そして、突き抜けるように、この人に意思に従おうと思った。
何を言われてもその通りにしようと思ったの。
この人が望むのなら、全力で叶えよう、と。
「全て、お前の好きなようにすればいい。ただ──」
──波の音もしないような、静かな夜だった。
世界に二人しかいないんじゃないかと思った。
そうであればいい、とさえ思った。