第17章 岐路(Ⅱ)
あたしは瞬きも忘れて、彼を見つめていた。さっきまでローは船べりにもたれかかるようにしてあたしと話していたはずだ。前のめりでもなく、どちらかというとゆったりと寄りかかっているように見えたのに。
彼がいつ動いたのか。
それすら分からなかった。
気付いたらあたしは押し倒されていて、あたしの顔の横にはローの左手が、そして目の前には金色に光る瞳があったのだ。
状況に追いつけていないあたしを差し置いて、ローは唐突に話し始める。
「お前が、倒れた理由…」
「え?」
「苦しみ出したのは、ドフラミンゴの声を聞いてからだ。アイツの声がした瞬間から、様子がおかしかった。何かあるはずだが……まだ、その理由が分かってねェ」
ローが言ってるのは、おそらくパンクハザードでのことだ。
そっか…。あたし、頭が痛くなったのは電伝虫の声を聞いたからだったっけ。どうしてだか、立ってられないくらい辛くなって。
「お前は、あの男に関わらねェ方がいい。…それこそ、声も聞こえねェ距離にいるべきだったんだ」
──……ああ、そうか。それで。
あの人やローが何も言わずに、あたしをあの島に置いて行った理由が、ようやく分かった気がした。
あのまま島を出ず、ぬくぬくと過ごしていたら、あたしは生き別れの家族がいるなんて一生知らなかっただろう。
だけど、あの人もローもそれでいいと思っていたんだ。知らぬまま、暮らしていけばそれでいいと。
存在すら感じられない距離で。
生きていることも知られないように。
それはつまり──あたしが思っているより遥かに、あの人もローも、ドフラミンゴを警戒していて。
……ドンキホーテ・ドフラミンゴはあたしにとって、それほど危険な男だということなのだ。