第17章 岐路(Ⅱ)
──パンクハザードを後にし、航海は順調。
先程とは打って変わって、頭上には晴天の青空。
清々しく吹き抜ける潮風。
耳に心地よい波の音と、鼻腔をくすぐる潮の香り。
誰が見たって素晴らしい船旅には違いないのだけれど、あたしの心中は決して穏やかではない。
なぜなら。
「……何がそんなに気に食わないのよ…」
──あたしの前方にいるのは不快感を隠そうともしない男。どうしてだか、今までに無いくらいご機嫌斜めのようで。
だけどあたしだって、訳もわからず怒られてやる筋合いはないんだから。なにに怒ってるのか、説明くらいしてよ!
内心の威勢の良さとは相反して、しっかり距離を取ってからローに威嚇していると、
「あ、トラ男!さっき誰と喋ってたんだ?」
ルフィがもぐもぐと口を動かしながら能天気に会話に割り込んできた。
あたしとローの間の不穏な空気も、目の前で繰り広げられている緑と黄の乱闘騒ぎも、彼には見えていないらしい。
ローは口を開いたけれど、あたしはその目に一瞬迷いが過ったのを見逃さなかった。彼の躊躇う理由があたしにはすぐに分かった。
…あたしがいるから、ここでは言いたくないんだ。
だけど今回ばかりは絶対に言うこと聞いてやるもんか。
1人だけ仲間外れにするなんて、もう許さない。
「あたし、一緒に聞くよ。今、"ドレスローザ"ってとこに向かってるんでしょう?さっき聞こえたよ。あたしもそこに行くんだから、聞いておかないと不都合なことになるかもしれないでしょ?」
「……」
「あ、船から降ろすってのは絶対ダメだからね。そんなことしたら、あたし、どんな手を使ってでも、ドレスローザに行ってやるんだから」
畳みかけるように言葉を紡ぐ。ローはずっと無言で聞いていたけど、"どんな手を使っても"のところでぴくりと眉を動かした。
それから、ややあって諦めたように深いため息をついた。