第17章 岐路(Ⅱ)
「……え?」
呪縛から解放されて後ろにのけぞった拍子に、ぐん、と別の強い力で引っ張られ。
そして今、そのままの体勢でゆらんゆらんと宙に浮いていた。
な、なに?
一瞬驚いたけど、どうやら首根っこを掴まれるような形でゾロから引き剥がされたらしい。
「保護者も大変ねぇ」
揶揄うようなナミの言葉に思わず天を仰ぐと、視界に入ったのは血も凍るほど冷ややかな目をした男。さっき、あたしをひどい言葉で突き放した、その人だった。
「何してんだ」
「…話は終わったの」
実際は引き剥がしてくれて心底安心したのだけど、それは一旦横に置いて、あたしもローに負けず劣らず尖った声を出す。
あたしだって、さっきのことであなたに腹を立ててるんだから。そんな不機嫌そうな顔されてもちっとも怖くない。
怖くない、んだけ、ど…。
「……あたしの処世術をね、教えていたの」
普段より数段迫力のある鋭い視線に負けて、渋々口を開く。
「体一つでどうやって海を渡ったのかっていう...」
「…あァ?」
正直に答えたのに、なぜかさらに低くなる声。
わずかに目を細めて眉間に皺を寄せる。
一瞬で下がった気温に、あたしは身の危険を察知した。
ど、どどうして!?
何が気に入らないの!?
あなたが聞いたんでしょう!?
言いたいところだけど、この状態でローに意見することは得策でない。となると…。
あたしは空気に溶けて彼の手から逃れ、十分に距離を取った。
そして。
「怒るんなら聞かないでよ!」
彼の手が届かない距離で叫びながら、やっと心の底から安堵したのだった。
…はぁ、全部、いろいろ、こわかった。