第17章 岐路(Ⅱ)
…そんなこと言われても。
妖しい光を湛えた彼の瞳を見つめながら、困ってしまってそのまま動きを止める。
どうしよう。
ここは正直に言って、さっさと逃げたほうがいいんだろうか。
それとも、彼はあたしを試してる?
ためらっている間にも、空気が徐々に重量感を増していく気がした。
どろり、と肌にまとわりつくようなそれは、あたしの思考までもを絡め取って、動きを鈍らせる。
からかってるなら、逃げるのは癪、だけど。
だけど、どうすればいいの。
あたし、だって、本当はこんな…。
涙は引っ込めたはずなのに、混乱に後押しされてまた視界にうっすらと膜を張る。
「…んな顔すんなよ。虐めたくなんだろが」
至近距離で目を細めて嘲笑う男を、途方に暮れて見つめるしかできないでいる、と──。
「てンめーはアウラちゃんに何してんだ!!この腐れマリモ!!!」
「ひゃっ」
真横から黒い何かが飛び込んできて、ゾロの腕の力が僅かに緩んだ。黒い…?え、足?
「ッチ、あぶねェなクソコックがァ!!」
サンジの蹴りを後ろに避けてかわしたゾロ。
その目には、さっきまでの妖艶な光はなかった。苛立ったように青筋を浮かべてサンジに刀を振りかざしている。
抜刀した瞬間は、見えなかった。
一方、あたしはと言うと…。