第17章 岐路(Ⅱ)
──そう。
あれは前半の海での出会いだった。
たまたまバーで知り合った美しい女の人に連れられて、あたしはあれよあれよと言う間に(今思えばかなり不用心よね)、その船に乗り込んだ。そして、次の島まで彼女たちと共に旅をしたのだ。
煌びやかな夜の雰囲気を纏い、魅惑的な蝶たちを内に閉じ込めて海路を征く船──通称ガールズシップ。
その船で働く見目麗しい女たちに、処世術の一環として、"男をオトすワザ"を手解いてもらったのだ。
得意気に説明していたところで、なにやら腰に圧がかかった。
なに?と思ったのも束の間、目の前の男の様子がさっきまでと一変していることに気づく。
「へェ…?意外と、悪くねェな」
ニヤリと笑う顔を見て、あたしは急に思い出した。
そう言えば。
このテを使っていたのはグランドライン前半の小物海賊だ。あたしのなけなしの色気でなんとか騙されてくれるような、そんなヤツらを慎重に選んでいたんだった。
だけど。
あたしはごくりと息を呑む。
今目の前にいるのは、間違ってもそんなお馬鹿な海賊じゃあない。
麦わらの一味の剣豪で。
懸賞金1億2000万ベリーの賞金首。
今更それに気づいて、そろりと彼の肩から腕を外し、後ろに下がろうとした。
「だから、その、つまり。こうやって上手く取り入って、船に乗せてもらったり、必要な情報を教えてもらったり……って。あの……は、離してよ」
「逃げんなよ。誘ったのはてめェだろ」
男は獰猛な獣のような目であたしを見つめて、愉快そうに喉の奥で笑った。
いつのまにか、腰にはゾロの屈強な左腕が周り、がっちりと押さえ込まれていて。片腕のはずなのにちっとも動かない。