第2章 旅立ち
「くそ、間に合わなかったか」
だんだん小さくなる船。
わざわざ見送りに行くのもなんか気恥ずかしくて、ぎりぎりまで迷っていた。
だけど結局、あの勝ち気で生意気でとてつもなくお人好しな少女を見送りに来てしまった。もう船は出た後だったが。
昼間に会った時、なぜかアイツの存在が消えてしまいそうに儚く見えた。
今日出て行くと突然聞いたから、そのせいかも知れない。
妙な胸騒ぎを覚えて思わず話しかけに行くと、何も考えていなさそうな顔で小首を傾げていた。
いつものアイツだった。
小さい頃から、同じ島の同じ教会で一緒に育った。
教会には先に俺がいて、5歳の誕生日の次の日に、知らねェ大人がアイツを連れてきた。大人は海兵の服を着ていた。
はじめは妹ができて喜んだが、しばらくしてアイツがどうしようもない愚図だと言うことに気づいた。
少し歩くだけで病気のように顔色が悪くなり、走ろうもんなら道端に倒れ込んで嘔吐した。
シスターはアイツにつきっきりになったし、先にいた俺からしてみれば厄介な奴がやってきたとしか思えなかった。
今思えばシスターを取られた気がして苛ついていただけだ。ガキの嫉妬だな。
数年一緒に暮らしてもアイツの鈍臭さは治らなかった。
前みたいに走っただけで吐く、なんてことはなかったが、歩けば転けるし、物を運べば全部落とす。
料理をしようもんなら片っ端から食材をダメにするし、見ていて腹の立つことといったらなかった。
だが、他の奴とはどこか違う雰囲気を持っていたのも確かだった。
その容姿にしてもどこか現実離れしていて、歳を重ねるごとにそれは目に見えて分かるようになった。
透けるように真っ白な肌に、青みがかった透明感のある瞳。
そして風になびいてふわふわと舞う銀色の髪。
たぶん、だが。
もっとちゃんとした服を着て、女らしくしたなら、右に並ぶ者はいねぇんじゃねぇかと思う。
他は知らねぇが、少なくともこの島には。