第17章 岐路(Ⅱ)
…うん、まあ。そりゃそうだ。
小娘一人が何の知識も手段もなしにグランドラインを渡れる訳がない。
だから、あたしは訝し気なゾロに視線を移して、ニヤリと笑ってみせた。
「なんの知識もないって言ったけど、あたし、船に乗せてもらうのは結構得意なの。それに関してはね、いろいろワザを仕入れたのよあたしも」
「へェ、どんな?」
「ん?こうすんの」
あたしは後ろで括ってた長い髪をほどく。自分勝手に波打つ銀色の髪を左肩に流してから、不審気なゾロににじり寄る。
──これは、前半の海で得た知識。
自分自身だって、人の好意だって、欲だって、利用できるものは全部使う。そこに一切のためらいや遠慮は必要ない、の。
だって、そうでもしないと、この海は渡れない。
生き残れないと知ったから。
──あたしはいつだって、自分の命を天秤にかけて、あたしが取れる最善の方法でこの海を渡ってきたのだ。
あたしは、自分の手のひらを彼の骨張った手の甲にぴたりと合わせる。
ゾロは何も言わない。
何をする気か様子を窺っているらしい。
ここで反応が悪ければ、大概は辞めるのだけど、今回はデモンストレーションだから関係ない。
あたしは構わず、ゾロの腕につーーっと指先を這わせて、そのまま肩に手をかける。それに合わせて視線を上げていくと、彼の深い暗色の瞳と目があった。
漆黒かと思っていたけど、よく見たら榛色の光沢がかかる。不思議な瞳の色だ。
──もっと近くで見たい。
半ば衝動的に彼との距離を詰めると、ぺろりと下唇を舐めた。あぐらをかくゾロの膝の上にほとんど乗っかるようにして、もう片方の肩にも腕をかける。
上目遣いで視線を合わせたあと(ここで、一回目を合わせるのがポイント、らしいの)、彼の耳元に口を寄せ、囁くように言葉を紡ぐ。
「…一人?ねぇ、一緒に連れてってよ」
それからゆっくり唇を離して、もう一度至近距離で向かい合う。