第17章 岐路(Ⅱ)
「足を出せ」
「はい?」
ローの意図が分からず困惑する。
なぜ、足?
突然何を言い出すのよ、この男は。
ぽかんとしているあたしに構わず、ローはあたしの前にしゃがみ込む。彼の骨張った手があたしの左足に触れてからようやく、どうやらモネにやられた傷を診てくれる気らしい、と気付いた。
「も、もう大丈夫だよ。血もとまったし」
「……」
動揺するあたしの言葉を見事にスルーして、彼は無言で座るように促す。あたしは抵抗は無駄だと悟って渋々言うことを聞き、彼の前に腰を下ろしたのだった。
治療の間、彼は終始無言だった。
いつになく真剣な眼差しに、彼の特徴的な帽子の影が落ちる。
それを見下ろす形で治療を受けながら、思わずどきどきしてしまったのはここだけの秘密ね。心臓の音が聞こえなくて本当に良かった。
とにかく、器用にあたしの左足に、包帯(そう言えばどこから調達したんだろう…)を巻き終えたあと、ローはようやく顔を上げた。
「これから一本連絡を入れる。…聞こえねェように耳、塞いどけよ」
「電伝虫?誰にかけるの?」
「…いいから向こう行ってろ」
ご丁寧に、デッキにいるルフィ達麦わらの一味の方を人差し指で示して、あたしを追い払おうとする。
そんなの、はいそうですか、なんて納得できるはずないでしょう。
「ロー、さっき、いつかあたしにも全部教えてくれるって言ったよね。もうそろそろ教えてよ。あなたはこれから何をするつもりなの」
あたしだって、あなたと同じ方向を見ていたいのに。そのためにここまで来たんだから。
どうして今、一人でいるのか。
他の仲間たちはどこにいるのか。
これから、何をしようとしているのか。
そろそろ教えてくれてもいいはずだ。
そう思うのに、彼はどこまでも頑なだった。
「お前は関わらねェ方がいい」
「どうして?」
「分からねェことが多すぎるからだ。シーザーよりこっちの方がまずかったのかもしれねェ…。嫌な予感がしやがる」
眉間に皺を寄せて、最後は独り言のように呟く。