第16章 岐路(Ⅰ)
何を言ってるの、私は。
彼女はもとからただの人間ではなかったじゃないですか。
駆け寄ってきた彼女の長い髪を見て、私は急にそのことを思い出した。
どうしても人目を引く銀色の長い髪。緩やかにうねる髪は光を乱反射してきらきらと煌めいて見える。
銀色の髪を持つ人はこの世に五万といるけれど、彼女のそれは今まで見たことのない不思議な色だった。
そして、その神秘的な髪から覗くのは、透き通るようにきめ細やかな肌。ほんのり血色感のある頬は内側から発光しているかのように艶やかで、少し泣いたのか、今は目の下まで淡い桃色に染まっていた。
彼女はまるで、精巧に作られた人形のようだった。目の前にして改めて、その容姿の人並みならぬ美しさに驚く。
彼女は微かに笑って肩をすくめてみせた。
「それがね、結局のところあたしにもよく分かんないんです。あちらとかこちらとか。もちろんあたしは海賊ではないし、どう頑張っても彼らと同じにはなれない。だけど、普通かと言われたら、どうやらそうでもないみたいで」
そこで言葉を切って、困ったように笑う。
「この島に来て、ますます自分がわからなくなってしまいました」
私が何も言えないでいると、隣のスモーカーさんが口を開いた。
「てめェが何者かはどうでもいいが、アイツらと行くってことは次会う時は敵同士だ。それを肝に銘じとけ。海軍に追われる覚悟があるなら、とっとと失せろ」
「ふふ。じゃあ、今回は見逃してくれるんですね」
スモーカーさんの厳しい眼差しにも彼女は動じなかった。形の良い唇を開いて、言葉を続ける。
「あたし、今まではある人にもう一度会うために旅をしてきたんですけど…」
彼女の言う"ある人"は、おそらくトラファルガーを指すのでしょう。
「これからは、自分を知るために旅をしようと思います」
決意を込めた彼女の言葉を、否定することなんて出来るはずもなかった。