第16章 岐路(Ⅰ)
「トラさんの知りたいことは、彼らの行先にあるんですね」
「ええ、おそらく」
そうして、彼女は何の躊躇いもなく、敵であるはずの私たちにペコリと頭を下げる。
「短い間でしたが、お世話になりました」
「「トラちゃん〜〜〜!!」」
「俺らと一緒に行こうぜ!!!」
「おれらの天使をアイツらなんかにやれるかよ〜〜」
涙ながらに引き止める男達に彼女は笑って手を振り、
「皆さん、また会いましょう!!」
今度は一瞬で、その場から消えたのだった。
──彼女は、どこまでも自由だった。
自分の向かう道を自分で決めて、風のように去って行った。
彼女はこの先で、自分が何者であるかを知るのでしょう。
それは純粋に良いことのように思えたし、たとえ敵であったとしても応援したいと思った。
──彼女はそういう人なんだから、仕方ないですね。
私はようやく自分の気持ちに折り合いをつけることができそうだった。
息を吸い込んで、ひとつ頷く。
「ええ、また会いましょう。トラさん」
「次会う時は敵だっつっただろうが…」
中将のぼやきは境界線の内側に残され、去って行った彼女の耳に届くことは、なかった。
第16章 『岐路(Ⅰ) 』 <END>