第16章 岐路(Ⅰ)
……そう。
認めてしまえば、私はきっと、彼女のことが気に入っていたのだ。彼女が線の向こう側にいることにショックを受けるくらいには。
溌剌とした明るい声に、勝気そうな大きな丸い目。
くるくると変わる表情は見ていて飽きることがない。
色素の薄い、長いまつ毛で縁取られた瞳は、いつも好奇心で満ち溢れていた。
考えていることが全部表情に出る素直さだったり、変なところで礼儀を守る律儀さだったり、そういったところがどうしようもなく人を惹きつけることを、彼女は知らない。
妹がいればおそらくこんな感じだったのでは、と誰もに思わせる。そんな娘だった。
だから、彼女がトラファルガーの仲間だと分かった時も、ショックを受けこそすれど、憎む気持ちにはなれなかった。海賊はすべからく悪だと思う身でありながら。
うちの海兵達は揃って彼女の虜だったけれど、私だって例外では無かったということだ。
一人悶々と考えていると、突然、彼女がこちらを振り返った。そして、何を思ったのかパタパタと私たちの方へ駆けてくる。
途中でバタンと地面に沈んだけれど、あきらめず立ち上がり、横たわる大きな線なんてまるで視界に入っていないようにひょいと軽く飛び越えた。
…彼女を嫌いになれる人なんて、そうはいないんでしょうね。
私がしみじみ思ったとき、警戒心なく近寄ってきた彼女に向かって、隣から不機嫌そうな声が飛んだ。
「てめェは能力者だろうが。なんで走ってくるんだ」
彼女は2回ほど瞬きをしたあと、ハッとしたようにスモーカーさんを見た。まるで、自分が能力者であることを今思い出したかのように。
そして、エヘヘと照れたように笑う。
「能力のことついさっきまで忘れてたので、まだ慣れてないんです」
忘れてた…?
彼女の発言はたまによく分からないときがある。
どういうことか気になったけれど、だけどそれより、私は言いたいことがあった。
「…トラさんは、あちら側の人だったんですね」
ぽつり、呟いてから何を言っているんだと自分でも思った。