第16章 岐路(Ⅰ)
──彼女は本当に、不思議な人だと思う。
何が、と言われると返答に困るけれど、この曲者ぞろいの新世界においても、彼女はどこか"異質“なのだ。
「この線の向こう側にいるからでしょうか…」
呟いて、視線を地面に移してみる。
私の前に広がる地面には真横に突き抜けるように、それはそれは長い一本の線が引かれていた。
さきほどうちの海兵が引いた線だ。
馴れ合わないように、あちら側とこちら側を分ける線。
それはつまり、海賊と海兵──決して交わらない二者を隔てる境界線だった。
その線の向こう側で、海賊たちと楽しげに話す彼女の様子を眺めながら、彼女の本質は一体どこにあるのかと思い巡らす。
初めて会った時は、ごくごく普通の女の子だと思った。元気で明るい、少しドジな只の女の子だと。
だけれど、今はどうでしょう。
悪魔の実の能力者であり、大物ルーキー達と対等に言葉を交わし、自分より遥かに強い敵にも物怖じすることなく立ち向かう。
そんな彼女をただの女の子だなんて言ってもいいのでしょうか?
「たしぎ、何を考えてるのか知らねェが、アイツぁハナからあっち側の人間だ。諦めろ」
葉巻を蒸す上司の言葉が、つらつらと考えていた私のところまで届く。
「何も考えてませんよ。ただ、彼女は一体何者なんだろうと思っただけです」
スモーカーさんに心の底を見透かされたように思えて、敢えてむすっとして答える。
だけどこの上司にはそんな私のちっぽけな抵抗も全てお見通しのようだった。フン、と鼻を鳴らし、また大きく煙を吐く。