第16章 岐路(Ⅰ)
パンクハザードの北側にある海岸には、小山ほどの巨大なタンカーが一隻泊まっていた。子供たちはそのタンカーの中に運び込まれて、チョッパーや軍医の治療を受けているらしい。
ローはそのタンカーへ一人で向かい、しばらく扉の向こうに消えた後、ふらりと戻ってきた。
「…成功したの?」
一緒に入らせてとせがんだけど、彼は絶対に中には入れてくれなかったから。眉尻を下げて、小声で聞いてみる。
「おれが失敗すると思うか?」
挑発的な笑みとともに質問で返され、あたしは治療が無事終わったことを知る。扉の向こうからは、明るい笑い声が響いてきた。
「うわーい!体が軽くなった!!」
「お兄ちゃんありがとう!!」
パタパタと子供たちが駆け出してくる。全身で喜びを表現して、はしゃぐ子供たち。
その中に、心配していた彼女の姿を見つけて、思わず駆け寄る。
「モチャ!!」
「おねーちゃん!モチャ、元気になったよ!ありがとう!!」
駆けてきたモチャをしっかと抱きしめる。精一杯腕を伸ばしても、彼女を包み込むことはできなかったけど、腕の中に温かい温度を感じてぶわっと目頭が熱くなった。
「よ...よかったぁ...」
やがて、モチャはお友達と一緒に駆けて行ったけど、あたしの涙はしばらく止まらなかった。
「なんで泣いてんだ」
「わか…んないっ。でも、...勝手に、涙が出てくる...だもん〜〜〜っ」
──これからあの子たちは、あの子たちの帰りを待つ人たちにうんと愛されて、生きていくんだ。
そして、奪われた時間を取り戻すくらい、いろんな経験をするの。喜んだり、泣いたり、怒ったり。その小さな体いっぱいに吸い込んで、育っていくんだ。
そう思うと、どうしてだか無性に泣けてくるの。
ずびずびと鼻を啜りながらぎゅっと目を閉じると、また涙が頬を伝って落ちた。