第16章 岐路(Ⅰ)
「ロー!!!今すぐあたしと一緒に来て!!」
突然目の前に現れたにも関わらず、彼は眉をピクリとも動かさない。
「…忙しねェヤツだな」
帽子の下から怪訝な表情を覗かせて、あたしを見返す。普段なら動揺してしまうくらい邪険な眼差しだったけど、自責の念に駆られている今のあたしには一切響かなかった。
「ねぇ、お願いよ。ローなら助けられるんでしょう?」
モチャの容態を説明し、彼を見つめて念押すように言うと、ローは珍しく詰まったように間を空けて、それから少し目を逸らした。
「…一応、ガキどもが食ったクスリについては調べた。約束だからな」
「それじゃあ…!」
なんだかんだ言いながらも、調べることは調べてくれたらしい。
あからさまに喜んだけれど、どうやらそんなに簡単な話ではないらしかった。ローは改めてあたしに目を向けて冷たく言い放つ。
「クスリのことは大体わかったが、治療すれば治ると考えているんならそれは間違いだ。おれがオペを施そうが、これから辛い長期治療が待っているのは変わらねェ。…完全に断てるかどうかは、ヤツ等次第だからな」
「で、でも、ローが診てあげたら、子供たちは少しでも楽になれるんでしょう…?」
もはやそうであってほしい、と願うばかりだった。彼らがこれ以上辛い目に遭うなんて、そんなの考えたくもない。
だけれど、ローの返事はどこまでも素っ気なかった。
「おそらくな。だが…どっちに転ぶか分からねェ赤の他人のためにおれがそこまでしてやる義理はねェよ」
「…なっ…!」
バッサリ言い捨てたあと沈黙を決め込むその人を見て、あたしは何も言えなかった。
な、なんて人だ!
ここまで薄情な人だったなんて、知らなかった。
こんなに可哀想な子供達を前にして、それでもなお、慈悲の心だけで動くことはできないと、彼はそう言うのだ。
彼の能力をもってすれば、きっと子供たちを楽にしてやることはできるはずなのに。