第2章 旅立ち
「お前、今日船に乗るんだってな」
急に話しかけられて、お昼ご飯に貰ったおにぎりを落っことしそうになった。
久しぶりにローと出会ったときのことを思い出してぼんやりしてたからか。
午前中、いつものことながら汗水垂らして必死で働き、休憩時間にまかないのおにぎりを3つもらってほくほくと頬張っていた。
商船の乗組員にはパール島まで乗せてもらえるようすでに頼んであったし、あとは夕方まで働いてこの船に乗って行くだけ。
そんな時だった。
赤い髪の彼が話しかけてきたのは。
「な、なによ。乗るけど、それがなに」
驚かされた仕返しに、ライに向かってちょっとトゲのある言い方をする。
昨日の今日だからちょっと気まずいっていうのもある。顔に出てないといいけど。
「どこまで」
あたしに負けず劣らず不機嫌そうなライ。
一応、パール島とは答えるけど、そう言えば何でこいつが知ってるの。
いくら小さい島とは言え、情報が回るのが早すぎる。昨日出発を決めたところだよ?
あたしの横に並んで甲板から海を見るライは、自分から聞いたくせに、ふうんと気のない返事をする。
そして、ふと思いついたようにこちらに目を向けた。
「それって1週間くらいで帰ってくるんだよな?」
いつもみたいにふざけてくれたらいいのに、なぜか今日に限って見つめる目は真剣だ。なんか調子が狂うなぁ。
そんな風に思っているのが顔に出ていたのか、ライはあたしの顔を見て首を振ると、ガシガシと頭を掻いた。
「まあ気をつけて行ってこいよ」
ぶっきらぼうに言う。優しいのか優しくないのか。思わずおにぎりに目を落とす。
昨日からどきどきするような、もやもやするような変な感じ。
あんなことを聞いたせいだ。
こんなに平静でいられないのは。
昨日の、メリダさんの、シスターの、話。
こういうの、得意じゃないや。
去っていくライを横目で見ながら、あたしは残りのおにぎりを食べ終えた。