第16章 岐路(Ⅰ)
彼らが向かったのはミカヅキ島の最北端の地──三日月のツノの部分にある岬だった。
あたしが追いついた時には、彼らは丁度その先端に立っていた。そんなに高さがあるわけではないけれど、先端は切り立った崖になっていて、下は穏やかな海が広がっている。
教会の男の子たちの間では、年頃になると度胸試しと言ってそこから海に飛び込むのが伝統だった。危険ではあるけれど、落ちる先は穏やかな海だし、シスターもここで遊ぶことを黙認しているところがあった。
だけど、そうは言っても決して小さな鳥を落としていいような場所じゃない。
飛べも泳げもしない鳥を、そんなところから落とすなんて。
ライは、ピィピィと悲鳴をあげる鳥をつまみ上げて、いよいよ手を離そうとしている。あたしは最後の力を振り絞って、岬の先端まで走った。
「やめて……!!」
「アウラ!?」
ライはあたしを見て驚いたようだった。
そりゃそうだ。喋ったことも歩いたこともないあたしが、大声をあげて、走ってくるんだから。
だから、ライは驚いた拍子にポイっと小鳥を投げ出してしまったのは、もしかしたら仕方のないことだったのかもしれない。
彼はきっと、小鳥のことなんて頭の中から飛んでしまうくらい、驚いてしまったんだと思うから。
だけど、その時のあたしはそんなふうには思えなかったの。
「ばかっ…!!」
あたしは真っ青になってライを怒鳴りつけた。
それが、初めて怒りを人に対してぶつけた瞬間だった。
こんな酷いことをするライに無性に腹が立つ。
無意識に体が動いた。
あたしは男の子たちを突き飛ばす勢いでライの元まで駆け寄って、そのまま一切の躊躇いなく海に飛び込んだのだった。