第16章 岐路(Ⅰ)
日曜日にシスターが焼いてくれるアップルパイが好きだった。
教会のお兄ちゃん、お姉ちゃんが優しくしてくれると心が温まった。
毎日笑顔で溢れる教会にいるのが幸せでたまらなかった。
だけど、それをどう伝えればいいのか分からなかった。
そう言えばあの頃は、男の子たちにいじめられても黙りこむばっかりだったっけ。怒りも悲しみもよくわからなかったから。
いつからだっけ。
いつ、"あたし"という人間が生まれたんだっけ。
…ああそうか。
思い出した。ライだ。
あたし、ライに怒ったんだ。
腹が立って、たまらなくて、思いっきり感情をぶつけたんだった。
あれが、"あたし"の始まりだったんだ。