第16章 岐路(Ⅰ)
──いつからだっけ。
いつから、怒ったり、泣いたり、笑ったりできるようになったんだっけ。
もう、思い出そうとしても辿れないくらい昔のことだ。
ローと出会うよりもずっと前。
教会にもまだ馴染めなくて、シスターが話しかけてくれなきゃ一日中部屋の隅っこでぼーっとしてた。
1人で歩くことも話すこともできる年齢のはずなのに、そのどちらもままならない。
病気を疑っても、医者はそろって正常だと言う。
シスターは困ってしまって、あたしにつきっきりになった。外に出る時はあたしを抱え、ごはんの時は一口ずつ食べさせて、夜は一緒に眠ってくれた。
そんな生活が当たり前だった。
──ずっとずっと、昔の話。