第15章 存在理由
あたしは顔を上げてナミとチョッパーを見た。
「あたし、ローを呼んでくる。あの人ならモチャを助けられると思うの」
言いながら、あたしの中に少しの疑問が生まれる。
あたしが頼み込んだところで彼は動いてくれるだろうか?顔をしかめて、「ほっとけ」って一蹴されるかも。
…いや。
不機嫌そうにされても、そんなの知らない。
この場でモチャを救える人が彼しかいないんなら、泣きすがってでもやってもらうしかない。
ナミがコクリと頷いた。
「頼んだわよ。私たちは子供たちを連れてこのまま出口を目指すわね。そこで落ち合いましょう」
「うん。…絶対に、モチャを助けてみせる」
あたしは決意を持って立ち上がると、みんなから離れて少し息を吐いた。
それから、さっき引きちぎった青いひも飾りをポケットから取り出して、ひもの部分で長い銀色の髪を一つに束ねる。
今全くローの気配を感じないということは、近くにはいないんだろう。ずっと遠くにいる彼の気配を追いかけないといけない。
そんなこと、あたしにできる?
…ううん、出来なくてもやらないと。
あたしは、身の回りを吹き抜ける微かな風を追うことに全神経を集中する。
どくんどくんと大きくなる自分の心臓の音が邪魔だ。今耳に入るのはあの人の音だけでいいのに。
彼の匂い。
声。
呼吸音。
動作をするたびに空気に伝わるその振動でさえも、あたしにとっては重要な情報だった。
それらを追って、ただひたすらローを探す。
「…いた」
程なくして、あたしは彼を見つけた。
6年間、追い求めていた彼をあたしはこんなに簡単に見つけることができる。それがちょっと不思議だった。
匂いも音も、こんなに近くに感じることができるなんて。もう二度と、会えないんじゃないかとすら思っていたのに。
ローがいる場所を頭の中に描きながら、自然と眉間に皺がよるのが自分でもわかった。だって、風が教えてくれたのはローの情報だけじゃなかったから。
あたしは、彼を見つけると同時に、彼のそばにいる人物の存在にも、気づかないわけにはいかなかったの。
1人はスモーカー中将。そしてもう1人は…。
「ロー、あなたが戦っているのって…」
あたしはごくり息を飲んで、一瞬で空気に溶けたのだった。