第15章 存在理由
モチャが駆け出してから、体感ではそんなに時間は経っていないはずだった。
なのに、あたしとナミが追いついた時、モチャの様子はついさっきまでと一変していて。
「モチャはどうしたの!?何で!?」
彼女は床に横たわっていた。
周りには依然暴走気味の子供たち。
だけど、今だけは彼らもちょっと混乱しているようだった。
あたしは咄嗟に子供たちの間に割って入ってモチャに駆け寄った。そして思わず悲鳴をあげる。
「モチャ…!」
モチャの周りにはおびただしい量の血だまりができていたのだ。状況から、モチャが吐いてしまったんだとわかる。
「モチャがキャンディを全部食べちゃったの!!」
「おれたちのキャンディもぜーんぶ!!」
「なんで…!?」
モチャは分かってたんじゃないの!?
これが覚醒剤だってことを。
分かってたからこそ、他の子供たちが食べないようにしてたはずなのに。
「…他の子供たちにキャンディを取られないように、全部食べたんだ」
下から聞こえてきた声に目を向けると、大きな子供たちで隠れて見えなかったけど、近くにいたのは小さなトナカイくん。麦わらの一味の船医、チョッパーだった。
「なんてことを…」
知ってたから。
知ってたから、モチャは食べたんだ。
他の子たちを助けるために…。
あんな量を一気に食べたらいけないことは、彼女には分かっていたはずなのに。
「助けないと…」
息も絶え絶えに、小刻みに震えているモチャ。
これ以上苦しそうな姿を見ていられなかった。
──助けないと。
彼女をこんなところで死なせたりしない。
モチャはまだこんなに小さいんだから。
まだまだこれから、知るべきことがたくさんあるんだから。
心の内側が熱くなる。
今までに何度も感じたことのある、使命感にも似た思い。
あたしは、彼女を救えそうな人を知っていた。
…彼なら。
きっと助けられる。
だって彼は海賊でありながら医者でもあって。
そして、認めるのはちょっと悔しいけど、
彼は、ローは、──まごうことなき天才なんだもの。