第2章 旅立ち
気づけばあたりはさっきよりだいぶ暗くなっていた。さすがに帰らないとまずい。
青年もそれに気づいたように、不意に腰を上げた。あたしもよろよろと立ち上がる。
かなり奥まで来ちゃったからな。
ちゃんと帰れるかな。
いささかの不安を抱えていると、青年がサクサクと葉っぱを踏みながら歩き出した。
森の奥ではなく、教会のある方向へ。
「帰らねェのか」
立ち止まってこちらを振り返る。
…もしかして、送ってくれるの?
やっぱり優しい人だ。
少し顔が緩む。
慌てて駆け出そうとして。
…2歩目で見事に素っ転んだ。
いっぱい休憩したはずなのにな。
とは思うけど、もういつものことだから慌てることはない。
よっこらせと起き上がる、と―。
視界がぐわんと反転した。
なに!?
ずんずん移動する地面を見て、やっと状況を理解した。
青年に担がれている。米俵のように!
「やだ!なにすんの!下ろしてってば!」
慌てておりようと暴れると、ちょうど腰のあたりで舌打ちが聞こえた。
「そんな足で歩いてたらいつまで経っても着かねェだろうが」
地面に下ろされた瞬間、剣のある目で睨まれて思わず黙る。
…さっきの撤回。
やっぱりこの人こわいや。
結局、背中に負ぶさる形で納得して、大人しく教会まで運んでもらうことになった。
はじめは緊張していたけど、思ったより温かい背中に安心してついついもたれかかってしまう。歩みに合わせて少しだけ揺れるのも心地いい。
「ねぇ、さっきちょっとだけ嘘ついちゃったの」
返事がないから聞いてるか分からないけど、それでもいいや。独り言のように話しかける。
「本当は生まれた時から教会にいるわけじゃなくてね、ここに来る前の記憶がちょっとだけあるの」
落ち葉を踏む音。
呼吸の音は聞こえない。