第15章 存在理由
「あ、危なかった…!」
あたしは彼女の腕から逃れて距離を取ってから、何度も生唾を飲み込んだ。
最後の最後で我に返って、風になれたからよかったものの、あのまま眠りに落ちてたら絶対危なかった。
ローに感謝しないといけない。
夢とは言え、あたしを正気に戻らせてくれたんだから。
でもそうか。ということは。
…さっきのはやっぱり夢だったのね。
良かった…。本当に、良かった。
あたしは色んな意味で冷や汗をかいて体勢を立て直す。
「やっぱりロギアは面倒ね。あなたは生かしたまま連れていきたいんだけど、少し手荒にしないと大人しくしてくれそうにないわね」
小さくつぶやく彼女を見て、あたしも気を引き締めて拳をぎゅっと握る。
ただでさえ苦手だと思っていたところに、とんでもなく"卑怯な言葉"で翻弄されて、ますますこの人が嫌になった。
…あたしが単純すぎるってわけじゃないはずだ。断じて。
「フフ。私のことが心底気に入らないって顔ね」
「うん。あたし、あなたのこととっっっても苦手!」
遠慮せず、彼女の目を見てきっぱり言い切る。
とにかく、彼女のペースを崩さないと。
待ってるだけじゃダメだ。
あたしは彼女が次に口を開く前に、左足で地面を蹴ると一気に距離を詰める。
さっきからやられっぱなしなのは、後手に回ってるから。彼女の言葉を親切に聞いてあげる必要なんてない。こっちから攻撃を仕掛けないと。
あたしは体を捻って彼女の首筋を狙って手刀を叩き込む。
本当は、掌で風を起こして刃物のようになればいいと思ったんだけど。残念ながら一瞬では作れなくて、結局素手になってしまった。
それでもしっかり急所に入ったと思ったのに、次の瞬間、彼女の体がどろりと溶けて地面に沈む。
それを見て初めて、あたしはモネが自然(ロギア)系の能力者であることに気づいた。
固いはずの地面が崩れ、白い海のように波打つ。
地面に溶ける白くて冷たい自然物。
──おそらく、雪だ。