第14章 ゆりかご
角を曲がってその先にある部屋に入り、あたしは思わず急ブレーキをかけて地面に降り立った。
おそらくここがモチャが初めに言っていたビスケットルームという部屋なんだろう。普段は子供たちが遊ぶための部屋。
…だと思うんだけど、今は様相が違っていた。
「キャンディーー!!!」
「キャンディはどこ!!食べたい!食べたい!!」
「早く!!誰か早く持ってきてよぉ!!」
子供たちは叫び声をあげて髪を振り乱し、なにやらキャンディを探し求めている。巨大な体で暴れ回るから、止めに掛かろうにもその凶暴さに一瞬ためらう。
だけど、あたしは尻込みしてる場合ではなかった。彼らの駆けて行く先を見て蒼白になる。
「モチャ!!」
「おねぇちゃん!!」
モチャが持っているのは、多分彼らが探し求めているキャンディ、つまり、覚醒剤だ。手のつけられない状態になっている子供たちがモチャ目掛けて走っている。
これから起こることが目に見えて分かって、あたしは咄嗟に地面すれすれに風を起こしてみた。
子供たちが足元を掬われて転けてしまうくらいの、そんな風を。
怪我をさせるのが怖くて手加減してしまったせいか、何度か試すことになった。
だけど、何とか子供たちを足止めすることに成功して、あたしはそれを確認すると同時にまた地面を蹴る。
モチャを子供たちから守らないと。
今の子供たちはモチャに何をするか分からない。
きっと、モチャが持っているキャンディを奪うためなら友達にだって平気で手をあげるだろう。彼らは今、それほどに正気を失っていた。
だけど、駆け出したあたしがモチャの元へ辿り着く前に、突如あたしの前に立ち塞がった者がいた。
──アップルグリーンの長い髪。
神秘的な大きな翼。
「モチャ、独り占めしちゃダメじゃない。みんなにも分けてあげないと」
艶のある声で、諭すようにモチャを見るのは、シーザーと一緒いた妖艶に笑う美女。
──モネだった。