第14章 ゆりかご
「あ、モネさんだ!!」
モチャがぱっと嬉しそうな顔をする。
だけど。
そうじゃない。そうじゃないのよモチャ。
その人は良い人じゃないの。
あなたたちを騙して、利用してるのよ。
全部言ってやりたかったけど、あたしは嬉しそうなモチャに真実を伝えることができなくて、代わりに目の前のモネを睨みつける。
「そこ、どいてよ。あたしモチャに用があんの」
「あら。あなた…フフ。さっきはローに助けてもらえて良かったわね。今度は一人?たった一人で私に勝てるの?」
クスクス笑う様子が無性に勘に触る。
この人、ローがあたしと入れ替わったの分かったんだ。あたしに大して実力がないのを知っていて、それでこんなに余裕なんだ。
苛立ったら負けだと思いながら、あたしは口を開かずにはいられなかった。
「さっきはちょっと戸惑っただけよ。あんまり舐めないで!」
精一杯睨みつけてやる。
舐めてると痛い目みるんだから!
だけど、目の前の女の人はどこまでも余裕気で、そして、ちょっと呆れているようにも見えた。
「…あなたって、まるで赤子なのね」
唇を舐めてから、つぶやくように続ける。
「何も知らずにぬくぬくと育ったのね。無知で愚かで…とても、可哀想だわ」
なんで初対面のあんたにそんなこと言われないといけないのよ!ますます苛立って声を荒げる寸前で、あたしは思いとどまる。
だって、そう言ったモネの目に映っているのは。
嘲りでも軽蔑でもない。
きっとあれは、──憐れみ。
彼女はあたしを哀れんで、同情している。
平和で温かな、ゆりかごのような島で。
何も知らずに育ったあたしを。
そして同時に、あたしはその目を見て悟ったのだった。
この人は、ヴェルゴとローと同じように、何かを知ってるんだ。
──あたしに関する、何かを。
第14章『ゆりかご』<END>