第13章 悪魔の実
そんなあたしと対照的に、底抜けに明るい男がいた。
「シュロロロロ…なぜかついさっきまでの記憶が曖昧だが、まあいい。…エ〜〜うォっほん。では始めよう」
あたしはその男を見つめて唇を尖らせる。
…さっきまでくたばってクセに。その能天気さが逆に羨ましいよ。
そうは思うものの、何を始めようとしてるのか少しは気になる。ヴェルゴもモネも、これからシーザーが始めようとしてる"それ"を待っていたようだったし。
シーザーは電伝虫を持つと、大きな図体を膨らませるようにして胸を張り、仰々しく話し始める。
「あー各地非合法なる"仲介人(ブローカー)"諸君。急な実験ですまないが、これを目にする君らは運がいい…」
そう言うや否や、今まで雪山のどこかを映し出していたモニターに、何やら赤紫色の物体が現れた。ゲル状の、ブヨブヨとした何か。
あたしはそれに見覚えがあった。研究所に入る前、ケンタウロスと海兵を襲っていたアレだ。あの時見たものはもっと小さくて、至る所にその物体が散らばっていたけど、今はそれらが集約して小山ほどの大きさになっていた。
シーザーはそれを"スマイリー"と呼んだ。
愛しいペットのように話しかけているけど…。あたしにはそれが気味悪くてたまらない。
なんだろう。このゾワゾワと背中を這う悪寒は。
これから起こることが、決してあたし達にとって良いことではない。それが目に見えて分かるようだった。
「諸君らにこれより見せる"毒ガス兵器"は、4年前のソレにさらに新たな効果を加え、とても政府のカス共では作り出せない代物になっている…!!」
シーザーはそこで勿体ぶって息をつき、檻の方を見てニタリと笑う。
「今日、我が島に招かれざる珍客達が迷い込んできた為、この機会に実験を執り行う次第だ。──気に入ってもらえたら、おれと取引しようじゃないか…!!」