第13章 悪魔の実
あたしはいつに無く冷静な気持ちで、目の前の男を見た。
今自分に起こっていることが何なのかちっとも分かんなかったけど、別に怖くは無かった。未知の恐ろしさと言うより、どこかこの感覚を知っているような、懐かしささえ覚える。
きっと、このひも飾りを付ける前までは普通の感覚だったんだと思う。走っただけで吐くなんてことも無ければ、倦怠感で次の日寝込んでしまうこともなくて。
20年弱忘れていた感覚がやっと体に戻って来たんだと、そんな気がする。
一つ、息を吐く。
やらないといけないことは分かっていた。
そして、どうすればそれができるのかも。
左足にぐっと力を入れる。
それだけでよかった。
一瞬、髪がなびいて。
動体視力が、ぎりぎり自分の速さに追いつく。
あたしは地面を蹴ったか蹴らないかのうちに、一瞬でヴェルゴの傍をすり抜けて──彼の背後に立つ。
そして、その時にはもう。
あたしの手には、欲しかったもの、つまり、ローの心臓が握られていたのだった。