第13章 悪魔の実
──風が吹いた。
それは、外から吹いてくるものではなくて。
もっと内側の、あたしの体の中で渦巻くようで。
お腹の底がぐっと熱くなったかと思うと、一瞬で体の隅々まで熱が広がり、手足の先がビリビリと痺れた。
今まで感じたことのない奇妙な感覚。
心臓がどくどくと早鐘を打ち始める。
そしてそれはやがて、あたしの体一つじゃ抑えきれないくらい強い渦になって。
もうだめ、耐えられないと思ったところで、ふっと力を抜くと、押し込められた風があたしの外に吹き出して、銀色の髪の毛をぶわっと舞い上がらせた。
体内で感じていたほどの豪風ってわけじゃなかったけど、一瞬部屋が静まり返るくらいの、風。
それが吹き抜けた瞬間、あたしは、体の中を支配していた熱とともに、体の感覚までもが出て行ってしまったんじゃ無いかと思った。
いや、感覚がないわけじゃない。
ただ、地面に足がついているはずなのに、意識していないと忘れそうなくらい体が軽いんだ。
気を抜くと空気となって溶け出してしまって、身体という、外界と隔てる器が無くなってしまうんじゃないかと思う。
今まで普通に暮らしてきたし、日頃倦怠感を感じていたわけでも無かったけど、これだけ体が軽くなると、急に今までものすごく不自由な生活を強いられていたような気がした。
…そう、だからつまり。
あたしはようやく気づいたの。
──これは、ずっと前にあの人がくれた大切なお守りであり。
そして同時に、あたしを地に繋ぎ止める足枷でもあったのだ、と。