第2章 旅立ち
「あなたどこから来たの?」
まずは答えがもらえそうな質問を投げてみる。
どこの誰だか知らないけれど、話し相手になってくれるのは嬉しい。
教会では年頃の女の子たちはほとんどもらわれていっちゃったし、辛うじて歳が近いライたちには毎日のことのようにいじめられるし、あまり話し相手と言える友達がいなかった。
シスターも小さい子たちもいるし別に寂しくはないけど、それでもやっぱり夜ご飯までここでじっとしているのはなんだか物悲しい気持ちになる。
青年は親指でくい、と教会とは逆のさらに深くて暗い森を指した。
「森?」
「いや、もっと奥だ」
奥?森の奥ってこと?
「じゃあ…海?」
青年は何も言わなかったけど、それを肯定と受け取る。
じゃあ街で見たことないと思ったのは正解だったわけね。島の人じゃなかったんだ。
そっか。
海、かぁ。
あたしは港から眺めるのが精いっぱいだけど、青年はあの広大な青の彼方からやってきたと言う。
「いいなぁ」
あの水平線の向こうはどんなだろう。
どんな世界があるんだろう。
さっきよりさらに、この目つきの悪い青年に興味が湧いた。
もっと聞いてみたい。
そう思って口を開こうとしたけど、先に言葉を発したのは青年の方だった。
「お前はいつからここにいる」
あたしに聞きたいことがあるの??
あたしだけいっぱい話を聞く気でいたから、ちょっとびっくりしてしまった。
「えっと…生まれた時から」
「ずっとか?」
「そう、ずーっと」
シスターには生まれて間もない頃にここに来たと教えられている。
だからちょっと迷ったけどその通りに答える。
なのに、青年は釈然としないような表情で地面に視線を落とした。
「それは」
一瞬、地面を見たのかと思ったけどどうやら違うみたいだ。