第2章 旅立ち
普通ならこんな暗い森の奥で知らない人と2人きりなんて恐怖を感じていいはずだけど、不思議とそれはなかった。
それよりも、この人は一体何者で、どこから来て、なぜこんなところにいるのか、そっちの方がよっぽど気になる。
それほどに、青年は不思議な雰囲気をまとっていた。
この街の人間にはない影のある表情。
話しかけないとどこかへ消えてしまいそうな。
もう少し話してみたい。
思うと同時に口を開いていた。
「ねぇ、ひまなんだったら、少しだけあたしとしゃべろうよ。日が落ちるまでいつもタイクツでたまらないの」
ためらいながらも言ってみる。
目を合わせるが少し怖くて、話している途中で目線は自然と地面に落ちたけど。
返事はなかった。
…よくよく考えたら、退屈しのぎに話し相手になってくれるなんて、そんな優しそうなタイプには見えなかった。
でも無視することないのに。
そう思って拗ねたように口を尖らせてみる。
しばらく沈黙が続いた後、前から小さな溜息が聞こえた。
思わず顔をあげると、その場に腰を下ろして胡座をかく青年。
頭が痛いとでも言うように、肘をつき、指で軽くこめかみを抑えている。目つきは鋭いけど、やっぱりなぜか嫌な感じはしない。
なんとなく根は悪い人ではないんじゃないかと思った。ほとんど直感に近いけど。