第13章 悪魔の実
息を切らして、ただただ走る。
彼らを助けたい。その強い意志があるから、不思議としんどいとは思わなかった。早く、早くと気持ちだけが急く。
だけど、強い意志があっても、それだけでは現実はどうにもならないことを、やがてあたしは気づいた。
つまりどういうことかと言うと、あたしはどこまでも続くのっぺりとした灰色の壁を見ながら、それのどこにも、侵入できる隙がないことを薄々感じ始めていたのだった。
よく考えてみたら、ここは4年前の実験の事故によって島自体が毒ガスで覆われていたんだった。
それなのに、人が侵入できるような穴が空いているわけない。そりゃもちろん、空気まで遮断するよう徹底して密閉されているだろう。
あたしはそれに気づいて、走るのをやめた。
「まいったな。本当にどうしようって感じよ、これは」
一人ごちると同時に吐く息が白い。
走ったおかげで体は寒くなかったけど、いよいよこのままではまずいという焦りがあたしの心臓をいやに騒めかせていた。
こうしている間にも、彼らはさらに窮地に立たされているかもしれないのに。
あたしは研究所の反対側、外壁の方向にふと視線を向けてみた。
あたしが走っていたのは、外壁と研究所の間の数メートルほどの空間。視線を向けた先には、見上げるほどの外壁がでんと腰を据えていて。
何気なくそれに沿うように前方に視線を走らせて、そしてあたしはおや、と思った。
何だろう。
何か、置いてある?
ここからかろうじて見える距離、斜め前の外壁の手前に何やら四角い箱のようなものがあるのが見えた。
思わず近寄ってみて、あたしはそれが箱では無いことに気づく。ついでに、置いてあるわけでも無かった。
生えている、のだ。