第13章 悪魔の実
「…木?」
いや、正確に言うと木があった跡。
切り株というやつだった。
雪が積もってほとんど木目は見えない。
だけど、それを払い除けるとやはりそれは、紛れもなく木が切り倒された跡で。
何でこんなところに…?
それも一本だけ。
周りを見ても、ここにはこれしか無いようだった。
あたしはそれを不思議な気持ちで眺めて、それから、過去、ここに一本だけ植っていたであろう木の姿を思い浮かべた。
外壁の手前。
あまり日は当たらない場所。
きっとそんなに大きくは育たなかっただろう。
それでも、ここに一本だけポツンと植っていた木。
だれが、何のために...?
そう考えて、──あたしは"思い出した"。
「…これを楽しみに、見に来ていた子がいたんだ」
そう。この木を見に。
研究所の中、緑を探して、ただこれだけを見に。
「…っ…!!いたっ…!!」
──突然の激痛で、頭が割れるんじゃないかと思った。
脳みそをぎゅっと絞られているような、内側から壊されているような、鋭い痛み。
意識が遠のきそうになりながら、あたしは必死でその痛みに耐えた。膝をついて、地面の雪をぎゅっと握りしめて、ただひたすらにおさまるのを待つ。
だって、こんなところで気を失っているわけにはいかないから。
あたしはこんなところで、立ち止まってるわけにはいかないの。
──それが例え、あたしが知らなければいけない、大事な記憶なんだとしても。