第2章 旅立ち
「おい、起きろ」
知らない人の声。
「こんなとこで寝てると風邪ひくぞ」
低い。男の人の声だ。
ゆっくり目を開けると、すぐ前に真っ黒な服を着た青年がしゃがんでいた。頭に変な帽子を被っている。
目をしぱしぱさせながらぼうっとしていると、その青年は乱暴に頭をゆすってきた。
「うわぁ、やめてよ。…気持ち悪い〜」
頭がぐわんぐわんする。
寝起きでこんなことをしてくるやつがいるか。
軽い吐き気を覚えていると、やっとゆするのをやめてくれた。
心なしか青年の口元が愉快げに見えた。
…ちょっと、楽しんでる?
ぼやける視界に木々の隙間のわずかな光が入る。
光があるってことはまだ日は落ちてないようだ。
この感じだとさっきからほとんど時間が経ってないような気がする。
いや、まてまて。
そんなことよりまず。
「だれ?」
ようやく覚醒した頭で目の前の人物について考える。
なんだこの人は。
街の人?でもこんな目つきの悪い男は見たことない。
普通の表情なのかもしれないけど、だいぶ人相が悪い。まさか悪い人じゃないよね…?
首を傾げて返事を待つのに、青年は答えず逆にこちらに問いかけてきた。
「なんでこんなところにいる。帰れねェのか?」
…先にあたしの質問に答えてよ。
思うものの、金色の目が有無を言わさずじっと見つめてくるから口まで出かかった文句を飲み込んだ。
こわくない。
…いや、ちょっとこわい。