第2章 旅立ち
「頭いたいな…」
ある程度葉っぱを払うと木の根っこに背中を預けた。走ったから体もだるい。
昔、ここに来たばかりの頃は、今みたいに走れなかった。
少し歩くだけで息が上がり、次の日は寝込むほどの病弱ぶりだった。シスターも心配してあんまり外に出してくれなかったっけ。
成長してもやっぱり足は遅くて、それもあいつらにからかわれる原因の一つだった。
だけど、そうやってからかわれるたび戦わずに逃げることを繰り返すうちに、脚力と瞬発力は身についた。
あとは森に入るたびに増えていく知識が武器だった。
どの道を抜ければ上手く撒けるか、どの辺りの地面は動きにくいか、ある程度は分かる。
今では、森の中で全力で走れば誰も追いつけない。
…さっきのツタは完全にミスだったけど。
今度からあそこは通らないようにしよう。
頭の中の地図に新しく注意マークをつけ加える。
あとこの場所も。
樹の傘があるから雨の日もしのげそうだ。
そんなことを考えながら、走って熱った体を樹の根にくっつけて冷やす。ひんやりして気持ちいい。
寝ちゃだめだ。
そう思うのに、疲れた体が言うことを聞かない。
ゆっくり瞼が下がってくるのをどうすることもできず、あたしはそのまま深い闇の底に沈んでいった。