第2章 旅立ち
あたしは昔から何もないところでよくこける。
ドジっ子と言えば可愛いもんだけど、今みたいな時は本当に勘弁してほしいと思う。
おかげでいつもあともう少しで逃げられるというところでコイツらに捕まって、いらぬ暴言をくらうことになるのだ。どんくさいのは損だ。
「お前の変な髪とお似合いだな、それ」
ライが薄く笑って、入り組んだツタを顎で指す。そして、ゆるくウェーブのかかったあたしの髪の毛を鷲掴んだ。
「いたい!」
「相変わらず気持ち悪ィ色」
なにをすんの。
あたしは結構気に入ってるのに。この銀色。
たしかにこの辺りでは珍しい色だけど、そんな風に言わなくてもいいじゃない。
あたしがこの髪に淡い期待を抱いているのは、誰にも言っていない。
もしかしたら、これは顔も見たことがないお父さんとお母さんのどちらかから受け継いだものかもしれない。いつかどこかで再会できた時に目印になるかもしれない。
そう思って、大事にしてきた髪だ。
物心ついた頃にはもうここにいたから、あたしにとってのお母さんはシスター1人だけど、やっぱりあたしを産んでくれた人にもいつか会えたらいいなと思う。
──そんな気持ちごと、握り潰すようなライの手。
コイツみたいな脳みそスッカラカンが触っていいものじゃないのに!
ぶちぶちとツタを引っこ抜いていた手を止めて、その下の地面の土をさり気無く掴む。
「あんたなんか大嫌いよばーか!」
そして、叫ぶと同時に土を思いっきり投げつけてやる。
「っってェ!!」
運良く(悪く?)目の中に入ったらしく、髪を掴んでいた手が離れた。
あたしは勢いよく立ち上がると、今度こそ後ろも見ずに駆け出した。
森の奥へ。
さらに深いところへ。
追いかけてくる足音は聞こえなかった。