第11章 疑惑の研究所
……え?
あ、えーっと。
もともとは、男装する時に何か名前が欲しいと思って、一番初めに思いついたのを言ったの。
だから、初めは男装してる時はトラ、普段はアウラって使い分けてたんだけど。
だけどトラの方が旅の間は便利で、なにしろ男でも女でも大抵通じるから、途中からずっとそれで通してたんだった。
なんだ、と言われればそれが答えなんだけど、まさか本人を前に、あなたの名前が一番初めに浮かびました、なんて言えるわけもない。
「それは、その…」
何かうまい言い訳が無いかと探してみるけど、"トラ"だなんて、どこから取ったかあまりにも明白で。
ローへの返答を考えれば考えるほどじわじわと羞恥の感情が芽生えてきて、せっかく元に戻った頬がまた熱を持ち始める。
よく考えると、これは、かなり。
かなり、恥ずかしいかもしれない…!!
ローの名前を借りてたのが、こんなところでバレるなんて。いや、あんな激戦を繰り広げながら、それを本人がちゃんと聞いてて、忘れてなかったなんて!
海兵に"トラちゃんトラちゃん"って言われてるあたしを見て、ローはなんて思ってたんだろう!?
…は、恥ずかしい…。
居た堪れなくなって赤くなるあたしを見て、ローは怪訝そうにしてたけど、やがて揶揄うように口の端を持ち上げて笑う。
「おれの名を勝手に使うのは別に構わねェが……つまらねェ奴に負けるなよ」
あたしはますます赤くなって、
「は、早く出ていって!!」
と叫んだのだった。
1人になりたくなかったのに、自ら追い出してしまったと気付いたのは、ローが出ていってしばらくしてからだった。