第11章 疑惑の研究所
泣くな。
泣くなあたし。
こんなことで悲しんでてどうすんのよ。
心のどこかでは分かってたはずじゃない。
あの日、ローがあたしを置いて行った時に、答えは出てたことじゃないの。
彼は全て過去のものにする気で、だから何も言わずに去って行ったんじゃないの。
ローはもう会うつもりはなかったのに、会いに来たのはあたしの方なんだから。
それで悲しんで勝手に傷つくのは、お門違いってやつよ。自分勝手もいいとこだ。
あたしが唇を噛んでその痛みに耐えていると、突然何かが頬に触れた。
冷たい。
思わず顔を上げると、ローが思ったより近くにいて、どくんと心臓が跳ねる。
頬に触れてたのは彼の手だった。
「何泣いてんだ」
「なっ、泣いてない…!!」
涙は出てないはずだ。
だってこんなに必死で耐えてるんだから。
思わず顔に手を当てて確認するあたしを見て、ローは目を細めてフッと笑う。
「大人になったじゃねェか。昔はビービー泣いてたのになァ」
「い、いつの話してんの!それにあたし、ローの前でそんなに泣いてない!!」
慌てて言うけど、それが嘘だってのは彼も気づいてて。
あたしは自分で言いながら頬が熱くなるのを感じた。
だってあたし、目の前のこの人がいなくなるたびに、森の中で泣きながら探してたんだもの。
突然帰ってきた時、涙をぼろぼろこぼしながら文句言ってたんだもの。
心臓が苦しいくらいどくどくと脈打つ。
触れている頬からあたしの熱が伝わるんじゃないかと思った。
──…あたし、昔っから、ローが好きだったんじゃないの。
本人を目の前にしてそれをまざまざと実感させられて、あたしはもう金色の目を真っ直ぐ見ることなんてできそうになかった。
ブルーロータスの花をサンドラ川に浮かべながら、心の底から好きだと思ったあの感情を思い出す。
そんな人が今、あたしの目の前に、手を伸ばせばすぐ触れられる距離にいる。
…最っ悪だ。
今、思い出したくなかった。